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埼玉発~全国へ 教育インタビュー 並木 利美子 八潮市教育委員会   教育委員長職務代理者

011 有識者やがんばっている若者達を紹介する教育インタビュー。

第8回は、並木 利美子 八潮市教育委員会 教育委員長職務代理者に、ご自身の経験を踏まえた上での学校教育、家庭教育などに関する思いをうかがってきました。

【プロローグ】

教育行政を担う機関といえば、文部科学省があり、さらに都道府県教育委員会がある。

一方、子ども達、地域の人々と最も近い位置にあるのが、市町村教育委員会。

人はそれぞれ。

地域性も異なる中で、最も有効かつ最適な取組が可能なのは、市町村教育委員会だと言ってもいいだろう。

なぜなら、教育とは、一律に扱うことは難しく、現実にある各地域の環境の中で、最適な選択、決断をしていく必要があるからだ。

埼玉の南東部に位置し、東京都とも隣接する八潮市。

交通機関が整備されてきたことにより、人口増の傾向も見られる条件下にあるこの場所に、日々、自ら汗を流し、地元教育の発展に尽力している女性教育委員の存在があることを知った。

身近にあるようで、実は、教育委員の素顔を知る人々は少ないのではないだろうか?

今回は、地域に密着した活動を長年に渡り続けている一人の女性教育委員に、教育にかける情熱、そのパワーの源泉を訊ねてきた。

 

原動力は感謝の気持ち

並木 利美子 八潮市教育委員会 教育委員長職務代理者

020 【地域活動への取組から】

依田(聞き手):まず、並木さんが、八潮市の教育委員に就任されたいきさつなどをお聞かせください。

並木:推薦です。私の子どもの通う小学校の学区域では、地域防犯ボランティア活動がとても盛んで、現役保護者として登校の見守りに協力させていただいたのがきっかけで市の交通指導員となりました。

また、地域の子ども会育成者連合会の地域支部長という、学校PTAとは違う立場で子ども達と保護者に関わり、地域と学校とを繋ぐ役割もさせていただいていました。

そういった地域活動が認められての任命だったのでは、と考えております。

【八潮市、八潮教育のこと】

依田:八潮市、そして八潮市教育の特徴について、並木さんの言葉でご説明ください。

並木:八潮市は埼玉県の東部地区に位置し、三郷、草加、越谷、足立区と隣接する人口約8万5千人の市です。

市南部では、平成17年につくばエクスプレス八潮駅が出来て以来人口も増え続け、とても活気があります。北部では逆に子どもの数が減る傾向にありますが、小中学校は少人数で家族的な暖かさときめ細やかな教育を受けられる利点があります。

八潮市の教育の特徴と言いますと、平成19年度から研究を進めている小中一貫教育です。9年間の連続性と系統性を重視した教育であり、市内を5ブロックに分けた分離型の小中一貫教育で、学力の向上と豊かな心の育成を目指しています。

依田:並木さんは、教育委員長職務代理者という重責を担っていらっしゃるわけですが、ご自身の中で、特に大切にしたい視点と申しますか、スタンスがあれば、教えてください。

並木:私はいくつかお仕事を兼任させていただいていて、埼玉県家庭教育アドバイザーとして保護者の方々と接し、交通指導員として子ども達と接し、民生委員として地域の方々と関わる事で八潮市の現状をリアルに知る事が出来ます。

そこから見えてくる様々な問題を、自分なりに研究し、今の日本の社会と照らし合わせながら意見を言わせていただいています。

要するに、教育の専門家ではない、という事が私独自の視点でありスタンスなのだと思います。

006 【学校教育と家庭教育】

依田:教育行政が担当する分野は多岐に渡りますね。その中でも、並木さんが特に力点を置いている分野(事項)はありますか。

並木:学力向上に繋がる全ての事柄です。子ども達に確かな学力をつける事こそが、学校教育の一番大切な仕事だと思います。しかし、これはそれ以外の全ての生きる力は家庭教育でしっかりと育まれるという事が、大前提にあっての話です。

依田:昨今は、学校に求められるものが多く、授業以外のことで、先生にかかる負担が、かなり大きくなっていると言われていますね。

並木:そう思います。家庭教育を大切にしてくださっている保護者の皆さんも沢山いらっしゃるので、そういった意識が拡がっていってほしいですね。

依田:子供の教育には、学校、家庭、地域の連携が必要だという意見がありますが、それが十分に機能しているか?と言えば、現状は厳しい状況だと思います。

家庭が果たす役割、意義など、いわゆる家庭教育について、並木さんのお考えを教えてください。

並木:先ほど少しふれましたが、例えば今問題になっている道徳教育や、危険回避能力、また、礼儀や規範意識などは本来家庭の中で学び地域での関わりにより育まれるべき事です。

しかし、現実には学校でも多くの時間を使い指導し、教員の負担がそれにより年々増しているようにも思えます。保護者の皆さんには、子どもたちの未来が安全で豊かであるために、家庭での教育にしっかりと取り組んで欲しいです。

依田:一昔前であれば、家にはおじいちゃん、おばあちゃんがいて、子供の様子を見てくれていましたが、核家族化が進むに連れ、我が子に何があったかが分からない・・・といった状況も、現実問題としてありますね。

並木:そうです、母親の子どもに対する責任が重すぎるのも問題です。核家族化という現状を見つめ、有効な手立てを考えることも、私達に課せられた課題だと思います。

008 【小中一貫教育】

依田:八潮市は、小中一貫教育に力を注いでいるとのことですが、その狙いと効果を教えてください。

並木:先ほども少し触れましたが、具体的に言いますと、まず中1ギャップの解消に取り組んでいただきました。

小学校、中学校間での教員の連携を強め、子どもたちの情報を共有しお互いに理解を深める事からのスタートです。

小学校の教員が中学へ、中学校の教員が小学校へ行き授業や掃除などに参加し、また、夏休みには中学生が小学生の学習補助をする、あいさつ運動を小中で協力して行うなど子ども達の交流も盛んです。

北部地区では毎年小中一貫合同運動会・体育祭を開催しています。

また、学習を確実に繋げるために八潮ベーシックと言う基礎学力問題集を作り小中間で活用しています。

それにより進学に伴う変化に対応できない子ども達の不安が徐々に解消され、不登校に繋がる例がこの8年間でかなり減少しました。

近年その成果が徐々に表れ、子ども達の基礎学力は確実に向上しています。そしてこれは個人的な希望でもありますが、八潮に近い将来、是非一体型の学校を設置して頂き、これまでの研究成果を生かし、確実な成果を出していただきたいと。

そして、その新たなステージで、学校と保護者、地域とのより強い連携など、沢山の新たな可能性に向けて、研究を重ねていただきたいと思っています。

考えるとワクワクしますね。とてもとても、期待しています。

010 【子ども達を取り巻く社会問題】

依田:昨今は、全国的にも「いじめ」や「学級崩壊」といった難題が山積していると思いますが、その部分に関して、並木さんは、どうお考えでしょうか。

並木:まず、子ども達を取り巻く社会問題は「いじめ」だけではありません。

貧困、虐待、家庭内DV・・特に先進国の中で日本が1番子どもの貧困率が高いことに驚きました。

現在、国から何かしらの援助を受けている子どもが6人に1人いるそうです。それに、10代後半から20代の若者の自殺率の高さも日本が1番です。

実は、私は今あげたこの問題を子ども時代に全て経験しています。

小学校時代、父親の母親に対するDVから逃れるためにいわゆるDVシェルターと呼ばれる場所を転々とし、学校に通う事が出来ない時期がありました。

結局、母親は私と1年生の弟を残して生きるために家を出ますが、離婚するまでの半年間、私自身も母からの暴力を受けました。

虐待の連鎖ってよく言いますが、精神的肉体的に追い詰められた母のストレスは一番近くにいる弱い存在の長女に向けられたのです。

そんな家庭環境でしたから、たまに学校へ行くと同級生から容赦なく仲間外れにされました。言葉の暴力や雑巾をぶつけられるなどの嫌がらせは毎日です。

でも、私は学校を休みませんでした。何故かと言うと、学校に行くと先生たちに会えたからです。

音楽の若い女性の先生が私の発言や行動をほめてくれ、保健のお母さんのような先生が、私を見つけては声をかけ抱きしめてくれました。

そして、担任の若い男性教員と学年の先生達は、私をいじめる同級生を見つけては必ず目の前で叱ってくれました。

今思えば、全員が私の境遇を理解し連携を取り、対応してくれていたのではないかと思っています。私は、先生たちに認められる事、期待されることが嬉しくて一生懸命勉強をがんばり、中学校では生徒会長も務め、高校へも無事進学しました。

しかし、親からの養育を高校途中で打ち切られ、自立せざるを得なかったので働きながら自力で高校を卒業しました。

大学進学の夢はかないませんでしたが、道をそれることなく、死を選ぶこともなく、結婚をし、子どもを2人産み育て、平凡ですが穏やかな生活をさせて頂いています。

そして今年、子どもを大学へ進学させるという自分が果たせなかった長年の夢も叶いました。

今の私があるのは、小中学校でお世話になった先生方のお蔭だと言っても過言ではありません。

すみません、自分の話が長くなりましたが、要するに今の私の存在自体が学校教育の大きな可能性であるのだと思いませんか?学校教育は子どもを救い導く最大の力である、と思います。

依田:並木さんが歩んで来た道、生きてきた姿が、多くの人々に勇気を与えると確信します。

こうして、ご自身の体験をこの場で語ってくださったことで、必ずや救われる子ども達もあることでしょう。 仰るとおり、まさに教育の可能性ですね。

031 【先生への感謝の気持ちは誰にも負けない】

依田:結びに、教育委員長職務代理者としての今後の抱負、そして、学校現場で働く先生方、家庭を守る保護者の皆さんへのメッセージをお願いします。

並木:まず、私が教育委員以外にも多様に活動をさせていただけている事に大変感謝しています。

八潮の教育委員は教育長を含めて5名です。石黒教育長をはじめ、加藤委員長、朝稲委員、木下委員、全員がこの八潮の教育に対し大変な熱意を持って関わっていらっしゃいます。

例えば、今後子ども達に最も危険を及ぼす問題は、インターネットに関連する事柄であると思うのですが、その問題を実体験で理解してもらうため、子ども達が実際に使っているSNS、LINEに委員の皆さんを招待してグループを作りました。

LINEでグループを作っている教育委員なんて、なかなかいないと思いますよ。

内容は行事参加の予定確認や、教育に関するニュースのシェアなどですが、使用していると、今の小中高生がこのLINEを使う目的や直面している様々な問題点がなんとなく見えてきます。

今の子ども達の悩みや実態を知る事はとても大切な事なので、そこに共感し協力してもらえる委員皆さんの懐の深さにとても感謝しています。

また、ネットに関する啓発ということで、忘れ難いことがあります。

私が、6年前、教育委員になりたての頃、教育委員会指導課に、私同様、子ども達へのネットの悪影響の広がりを心配し、親身になって相談に乗ってくれる指導主事の先生がいらっしゃいました。

清黒指導主事という方で、子どもが同じ年だったので、親の立場として共感してくださったのだと思います。

残念ながら、その先生は3年前に50歳の若さで他界されたのですが、私も今、その先生と同じ年になりました。あの頃、先生がお話してくれた事を、今でも初心として大切にしています。

025 また、抱負と言えるかわかりませんが、去年、埼玉県家庭教育アドバイザーの養成研修講座で、県の教育委員、藤崎育子先生が講師としてこんな話をしてくださいました。

先生は松下政経塾のご出身で、前野田総理と師弟関係にあり、一緒に塾生の面接をされた事があり、どんな人材を選ぶかで二人の意見が一致したそうです。

それは、片親の家庭で育った人。間違いなくその人は、片親家庭のために一生懸命考え働いてくれるはずだからとの事でした。

その話を聞いて私は自分の生い立ちを思いました。

私は様々な問題を抱えている子ども達や親の思いに寄り添い、実感として考える事が出来ます。それが今後何かのお役に立てるのではないかと思いました。

私が教育委員へと導かれた本当の意味もそこにあるのかもしれません。

現場で働く先生方には、心からエールを送らせていただきます。

私の先生方に対する感謝の気持ちや愛情の深さは誰にも負けません。でも、だからこそ、厳しい目を持っています。先生方には困難に負けず、いつでも明るく元気に子ども達に接していただきたいと思います。

保護者の皆さんへ是非お願いしたいのは、何故勉強するのか?という子どもの疑問に答えてあげてください、ということです。

ある先生は「愛する者を守るため」とおっしゃいました。ノーベル物理学賞を受賞なさった天野先生は「人の役に立つためだ」と言われています。共感できる答えを引用しても構わないし、ご自分の考えでも構いません。

保護者自身が、学ぶ事の意味を明確に持ち、子どもに日々伝える事がとても大切です。

依田:今日は、ご多用の中、貴重なお話をありがとうございました。

並木さんの生い立ち、その上で今ある姿に感動を覚えました。

必ずや、並木さんのメッセージは、多くの方々の心に響くことでしょう。

並木:こちらこそ、ありがとうございました。

子ども達、家庭、そして学校と、心から大切にしたいものです。

ぜひ、依田さんも、これからの八潮を見守ってくださいね。

027 【エピローグ】

並木さんは、笑顔のステキな人である。

おだやかであたたかく、人を包み込むものを感じる。

そんな並木さんが語ってくれた少女期の辛かった思い出。

「生きる力」という言葉がよく使われるが、並木さんは、まさにそれを実体験を経て、具現してきた人ではないだろうか。

並木さんの情熱、教育への思いが、必ずや八潮市教育の益々の発展につながることだろう。

さらに、並木さんが語ってくれた人生に、光を見つけ、勇気を抱く子ども達もいるのではないか。

インタビューの中で、並木さんは、こんなことも語ってくれた。

「現代は、母親の孤立ということもあります。核家族化の中で、父親がどう家庭に関わっていくかが重要です。ぜひ、お父さん達へ向けた講座も企画できたら嬉しい限りです」。

並木さんの熱意とパワーには、頭が下がる思いである。

ぜひ八潮市には、埼玉教育をリードする存在として、その取組を大いに発信してほしい。

八潮の未来は明るい・・・・と、実感せずにいられない。

文末になったが、たいへんご多用の中、快く時間をさいてくださった並木さんに、心から感謝の意を表すると共に、今回のインタビューを実現するに当たり、ご高配くださった八潮市教育委員会、教育総務課各位に、感謝申し上げる次第である。

2014年10月27日

(取材と文責:依田 透)