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埼玉発~全国へ 教育インタビュー 渡邉 亮 県立学校人事課長

有識者やがんばっている若者達をご紹介する教育インタビュー。

第一回は、渡邉 亮 埼玉県教育局県立学校部 県立学校人事課長に、教職員の人事行政や学校長時代のことなどについて、お話を伺いました。

【プロローグ】 第二庁舎外観 浦和駅の改札を出て、裏門通りを抜けようかとも考えたが、ふと、さくら草通りへ歩を進める。

午後の陽光に流れる風は、穏やかな5月の日ならではだ。

実はこのインタビューは、別の日に行うはずだった。

「せっかくなら天気のよい日にしましょう」とは、渡邉さんからの有り難き提案である。

屋外で写真を撮りたいという私の我が儘を快く聞いてくれた故の思いやり。

「今回は鋭く迫るぞ!」と、気合いを入れていたはずの私だが、まったくもって、渡邉さんの心遣いには感心するばかり。

だが!高校教育、あるいは学校人事行政についての核心を訊ねるべく、渡邉さんへのインタビューは始まった。

ひとり一人が自分の夢を大切に

   渡邉 亮 埼玉県教育局県立学校部 県立学校人事課長

【渡邉さんという人】

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      依田(聞き手):この4月、県立学校人事課長となり、約1ヶ月半が過ぎたわけですが、まず感想を聞かせてください。

渡邉:昨年度までは、県立学校人事課の一員として、学校管理幹を務めていました。

今年、課長職になってみて、県立学校人事課は総務、事務職員人事、県立学校総務事務、教員人事、学事、管理指導、学校相談、高校改革推進、学校・人事評価と、実に多岐にわたる業務を担当する課だなと、改めて実感しました。 課員も53名になります。
依田:課員53名というのは、県庁の中でも、かなりの大所帯ですね。まとめていくのも大変では?
渡邉:職員が皆、本当によくやってくれますし、信頼できる人材ばかりですので助かっていますよ。
依田:渡邉さんの職は激務ですが、ご自宅で、あるいは外で、何かリフレッシュ法はありますか。
渡邉:普段は読書ですね。特に、一日の仕事が終わって、帰りの電車で、わくわくドキドキするような小説を読むのが好きです。
依田:推理小説などですか?
渡邉:推理小説も読みますよ。でもジャンルはと言えば、幅広く読んでいますね。
依田:最近読んだ本で、何かご紹介いただけますか。
渡邉:再度読み直したもので、上橋菜穂子さんの作品はお勧めですね。それに、藤沢周平さんの作品も大好きで、よく読んでいます。
依田:藤沢小説は、私も大好きで愛読しています。上橋さんの本は手にしたことがないので、ぜひ読んでみます。
渡邉:ぜひ。上橋菜穂子さんの作品は、ファンタジーを感じさせるところが、いいんですよ。
依田:オフで楽しみにしている趣味はありますか。
渡邉:物を作ることが楽しみです。料理、木工、栽培など、何かを作り上げることが楽しみですね。 週末には、結構いろいろな料理もしますよ。家族に好評なのは煮込み系です。
依田:渡邉さんの意外な一面を知ったような気がします。煮込みというと、モツ、鯖、大根の煮つけ系ですか?
渡邉:いろいろ作りますが、オックステールスープが好評です。牛の尾を煮込んでスープにするものなんですよ。
依田:木工というと、どんな物を作ったのでしょう。
渡邉:我が家の本棚など、簡単な棚類は、すべて私が作りました。一度、車庫で製作したことがあるのですが、大きくて、重くなり過ぎてしまい、運べなくなって、解体して家の中で組み立て直したこともありますよ。
依田:ものづくり、何かを作り上げていくということは、人を育てることに通じる気がします。以前、ある先輩から、「農業の先生は、生徒をとても大切に育てる」という話を聞いたことがあります。
渡邉:まさに、そのとおりです。農業のことも、そうだと思いますよ。日々丹精を込め、愛情を込めて育てるわけですから。
ピンクのバラ
【教職員の執務環境 コミュニケーションを大切に】
依田:渡邉さんは、教職員の人事、服務の責任者たる仕事を担っています。 昨今、教職員を含めて、公務員の服務に対する社会の視線が厳しくなっている状況下、渡邉さんが特に留意していることはありますか。
渡邉:年度当初に、課の皆さんにも話をしたのですが、第一にコミュニケーションを大切にしてほしいということです。 県立学校人事課は、大変激務であり、課の皆さんは、気づけばお昼のチャイムが鳴り、気づいてみれば退庁のチャイムが鳴っているという状況で仕事をしています。
ともすれば仕事に追われ、それぞれの意思の疎通が疎かになり、孤立していってしまう心配があります。 是非、声に出して、お互いの気持ちを交し合って業務を行うことを心がけてほしい、コミュニケーションを大切にしてほしいと伝えました。
みんなが他者を理解して、協力し合う体制が作られていくように、これからも心を配っていきたいと思っています。
依田:声に出すというのは大切なことですね。昨今はどうも、伸び伸びしていないというか、黙々と自分の仕事だけと向き合っている姿を見かけます。
渡邉:言葉にしなければ伝わらないこともあります。夫婦だってそうですよね。 声をかけること、そして語らせることが大切です。
依田:仰るとおりですね。気を遣って声をかける人は結構いると思いますが、相手の気持ちを語らせるという面では、足りない部分もありそうです。
渡邉:自分が思っていることや、今の状況を言ってもらえるようにするのは、とても大切ではないでしょうか。たとえば、そうすることで、メンタルで悩みをもつ教職員も救われることがあると思うんです。
依田:時代の風潮でもあるので、致し方ない部分はあるかもしれませんが、とにかく自分の仕事だけは完璧にやるという空気があるように感じます。
渡邉:たとえば、帰りがけに「何か手伝うことはありますか?」と声をかける。 「大丈夫です」という答えが返ってくるかもしれませんが、そう言ってくれるだけでも、自分一人ではないんだなと感じられるのではないでしょうか。
【自助・共助・公助】
依田:教育長が仰っている「自助・公助・共助」について、埼玉の人事行政の中で、どのように生かしていくことができるでしょうか。
渡邉:人事行政の中では、やはり公助になりますでしょうか。 それぞれの教職員のライフプラン、人事希望をいかに汲み取って、全体のバランスの中で、少しでも寄り添って人事行政を行うことができるかということにかかっていると思います。
人事に係る要望は、ひとり一人微妙に異なっています。教科指導で生きがいを感じる人、部活動で生きがいを持つ人、家族の介護を必要としていて近くでの勤務を希望する人など様々です。 これらをいかに把握して公助できるかということだと思います。
依田:ひとり一人の状況や希望を把握するには、学校、とりわけ校長とのコミュニケーションが重要になりますね。
渡邉:そのとおりです。校長先生方には、しっかり正確に把握していただけるようお願いしたいですね。
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【適材適所とは】
依田:人事では「適材適所」ということがよく言われますが、渡邉さんの考える適材適所とは、どんなものでしょうか。
渡邉:教職員ひとり一人の能力、適性を把握して、それらがより良く発揮される人事配置を行うことだと思います。
また、各学校においては、必ずしも全てがバランスよく配置されているわけではありませんし、時には、年度当初には良くても、途中から課題が見つかる場合もあります。 これらを少しでもより良い教職員組織になるよう人事配置を行うことが、適材適所であると言えると思います。
依田:人事においては、年度途中にイレギュラーな事態も起こり得ると思います。その時いかに有効かつ適切な判断をするかが求められますね。
【教職員の事故、不祥事防止対策 自覚を高めること】
依田:全国的に見ても、教職員の事故、あるいは不祥事がマスコミで取上げられることが多い状況ですが、有効な防止策は、たとえば何があるとお考えですか。
渡邉:飲酒運転などは、全国的に大変厳しい目が向けられるようになり、また厳しい処分が科されることもあって、減少していると捉えています。 このように、厳しい対応をすることで防止する方法も必要な場合がありますが、本来は、教職員ひとり一人が、公務員としての自覚を高めていくことが大切だと思っています。
なかなかはっきりとした効果的方法というのはありませんが、様々な研修会や機会を捉えての管理職や同僚などからの働きかけなどで、ひとり一人の自覚を高めさせることや注意喚起をしていくことが重要ですね。
依田:ひとり一人が自ら考え、自覚を促すことにより、教職員としての成長にも繋がると考えてよいでしょうか。
渡邉:まさにそのとおりです。
【手堅い人事と攻めの人事】
依田:私は、人事には手堅くいくものと、攻めの要素を込めたものがあると思っています。 攻めの人事とは、たとえば若手の登用や、隠れた人材を見出し抜擢することです。
全体のバランスの中でということでしょうが、攻めの人事もある程度ないと、組織が活性化しないように考えているのですが、その点について、渡邉さんはどう思われますか。
渡邉:私も依田さんの言われるとおりであると思います。特に現在の職員の年齢構成は、50代が極端に多く、40代半ばからの若い年齢の層が薄い状態です。本来は、40代の教職員が新たなリーダーとして学校を担っていくことが多いのですが、なかなか難しい状況であります。これを打開するには、若手の教職員を登用するような攻めの人事が必要だと思います。また、場合によっては50代のベテランに補佐してもらうことも重要だと考えています。
教職員を育てるという視点からも若手の登用はとても有意義であると考えています。  また、隠れた人材の発掘も重要であります。そのためには多くの人たちから情報を得たり、聞いて、固定的な価値観で判断しないことも必要だと思います。
藤の花
【リーダーとしての校長に期待するもの】
依田:校長という立場は、教育の場における責任者であり、昨今では経営者としての資質も期待されるなど、質、量ともに苦労が多いと感じますが、リーダーとしての校長に期待される要素とは、どのような点にありますか。
渡邉:判断力と決断力でしょうか。 問題点や課題、また事態を的確に捉え、将来的な見通しを立てながら方向性を定める判断力が大切です。 そして、それを果断に実行するための決断力ですね。
考えるだけではだめで、いつ、どのように実施するかを決める力が求められています。
依田:判断力、決断力というと、それは仕事のスピード感へも繋がるような気がしますが。
渡邉:そうです。重要な案件ほど素早く情報を伝達すること、完璧ではなくてもいいから、まずは事実関係をスピード感をもって報告することが大切ですね。後手になったらアウトです。
依田:現場によっては、重要な案件ほど丁寧にきちんとやろうとする気風もあると思いますが、第一報、第二報、第三報といった具合に、タイムリーに仕事を進めることで、リスク管理にもなりますね。
渡邉:多くの校長先生方は経験豊富で、様々な見通しを立てられていますし、対策を持たれています。しかし、いざというとき、それを実行に移す決断力がないと、教職員が一丸となって物事に対処することができません。 リーダーとして、教職員を力強く引っ張っていく決断力が重要だと思っています。
依田:私は、県立学校人事課が、何でもかんでも手伝ったり助言することは、むしろ校長のリーダーシップを阻害するものだと考えています。 いわゆる過保護な状態になってしまうと。
渡邉:同感ですよ。
【芸総高校長時代 生徒が流した涙を忘れられない】
依田:芸術総合高校、校長時代のことを聞かせてください。 いろいろな目標や夢を持った生徒達が集まってくる学校だと思いますが、高校卒業後を見据えて、進路などについて、学校として特に考慮したことはありますか。
渡邉:芸術総合高校は、美術科、音楽科、映像芸術科、舞台芸術科の芸術4学科のみからなる県内唯一の芸術系専門高校です。 それぞれの専門分野をより深めたいという希望を持った生徒達が全県から通学してくれています。
各学科1クラスで、入学時から将来を見据えた教育活動が展開され、実技を伴った様々な教育活動の中で、きめ細やかな指導がされています。 ひとり一人の特性を踏まえた指導の充実に取組むことを大切にしております。
依田:実は私、知人に芸総の卒業生が多く、「芸総へ行って本当に良かった!」と言っている子供達が多いんです。 校長時代、特に印象に残っていることがあったら教えてください。
渡邉:芸総生の7割以上が、1時間を超える通学時間をかけて通ってくれています。そして朝早くから夜遅くまで、それぞれの専門学科を熱心に学んでいます。 その成果を発表会の形などで披露してくれるのですが、その発表会を終えた後の生徒達それぞれのやり遂げた表情や充実感は、とても素晴らしく、感動的でした。
中には、やり遂げた達成感、緊張や重責からの解放感で、涙を浮かべている生徒も少なくありません。 とても素敵な涙でした。
依田:遠方から3年間も通い続けるのは、簡単なことではないと思います。教職員も生徒も余程の努力をしたのでしょうね。
渡邉:みんな本当に一生懸命やってくれました。生徒達が流した涙も、がんばり、乗り越えたからこそです。当然つらいこともあったと思いますが、今はきっと、良い思い出になってくれていると思います。
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【教育長秘書時代に学んだもの】
依田:教育長秘書をしていた時期のことを伺います。 時間に追われ、体力的にも精神的にもタフな仕事だったと思いますが、渡邉さんにとって、教育長秘書として過ごした時間は、どのようなものだったでしょうか。
渡邉:教員として14年間の勤務をして、高校の人事関係の仕事を5年間させていただきました。その後、総務部に身を移して秘書業務をさせていただきました。 総務部は、行政のプロパーである人達ばかりで、当時は、まったく違う世界に身を置いたような気がしましたね。
秘書の仕事は、教育長がスムーズに仕事を進められるように準備を整えるのが大きな責務です。そのためには、多くの課との連携、折衝が必要となり、時としてきついと思うこともありましたが、一方、様々なことを学ぶことができました。
何よりも感謝したいのは、県の教育を預かる教育長のすぐそばで仕事ができたことです。 私は、稲葉教育長の元で2年間秘書をさせていただきましたが、教育に関する深い識見、課題を見極める鋭い感覚、そして新たな施策を策定する発想力など、次元の違う領域を目の当たりにしました。
もちろん届くことのできないレベルですが、今でも少しでも近づければと思って仕事をしています。 これは、秘書をされていた依田さんも同じなのではないかと思いますが、いかがでしょうか。
依田:そうですね。分刻み、いや秒刻みに飛び込んでくる事案、その対処、調整など、思えば厳しい世界だったかもしれませんが、不思議と嫌な思い出は何も残っていません。 本当に、多くを学ばせてもらった歳月だったと心から思いますね。
渡邉さんがお仕えした稲葉教育長は、行政マンとしても多くの経験をなさってきた人ですが、渡邉さんが「これは特に勉強になった」と感じているのは、どんな点でしょうか。
渡邉:まず、立案力ですね。そして将来を見通す力です。これは本当に素晴らしいものだったし、今でも学ばせていただくことが多いです。
【今一度 渡邉さんという人】
依田:教師として、行政マンとして、人として、渡邉さんはどの面でも素晴らしい人だと、私は常日頃感心しているのですが、これは誉め過ぎでしょうか?
渡邉:依田さんも人が悪い。誉め過ぎ以外の何ものでもありませんよ。
【生徒達へのメッセージ 自分の夢を大切に】
依田:結びに、高校で学ぶ生徒達に、一言お願いします。
渡邉:これからの時代は、皆さんに任されている皆さんの時代です。 ひとり一人が自分の夢を大切に、自分の夢の実現に向けて、人生を一歩一歩、誠実に歩んでいってほしいと思います。 皆さんのこれからの活躍に大いに期待しています。
依田:夢の実現という意味では、教職員そして広く多くの皆さんへ向けての気持ちでもあると考えてよいでしょうか。
渡邉:はい。何歳になっても夢を思い描き、やり遂げたいという気持ちを持つことが大切だし、人生の充実へと繋がると考えています。 夢を大切に。私から皆さんへ贈りたい言葉です。
県庁花時計
【エピローグ】
インタビューを終えたとき、一つの仕事が終わったという感慨は一切なかった。 なぜなら、あまりに楽しかったからだ。 渡邉さんは、どんなに多用であると思われるときも、常に変わらず穏やかにして、あたたかく人に接してくれる。
その柔らかい素顔の中にこそ、真に強い意思が宿っているものと私は信じている。
私は思う。 渡邉さんは、間違いなく、埼玉県教育委員会、そして関根教育長の目指す施策、理想の姿を実現するに、またとない人物であると。
埼玉県の教育が花開き、多くの種を蒔くことを期待し、これからを見つめていきたい。
文末になったが、ご多用の中、快くインタビューを引き受けてくださった渡邉さんに厚くお礼を申し上げると共に、取材にあたり、多々ご協力くださった埼玉県教育局の皆さんに、心から感謝したい。
    (取材と文責、写真:依田 透)