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埼玉発~全国へ 教育インタビュー 杉山 剛士 県立浦和高等学校長

浦高正門 有識者やがんばっている若者達を紹介する教育インタビュー。

第3回は、杉山 剛士 埼玉県立浦和高等学校 校長にお話を伺ってきました。

【プロローグ】

「浦高」の名で親しまれる埼玉県立浦和高等学校の誕生は、明治28年、旧制浦和中学校の設立時まで遡る。 以来、幾多の人材を輩出し、各界における活躍はめざましいものがある。

あの宇宙飛行士、若田光一さんもその一人。 校歌の一節、「広き宇内に雄飛せん」という言葉をまさに具現してきた高校であると言えるだろう。

浦高といえば、一般的には「すごく勉強の出来る子が行く高校」とか、「有名大学へたくさんの合格者を出す進学エリート校」というイメージがあるかもしれない。

しかし、浦高を語るには、それだけでは足りない。 たとえばサッカー部の歴史を振り返ってみよう。 「埼玉県を制する者は全国を制す。」という言葉は、高校サッカーを愛する方々にとっては、あまりにも有名なものである。

サッカー王国埼玉のはじまりは浦高サッカー部だった。 全国高校選手権では3回の制覇、国体でも2度の優勝を果たしている。

「文武両道」を唱えることは簡単かもしれない。 しかし、120年にも近い間、それを実現し続けてきた浦高には、並外れた意志があったはずである。

生徒達の叫び、教職員の努力、伝え続けてきたメッセージ・・・。

今回私は、浦高教育の礎になっているものを見つける旅に出るべく、校長室の扉を叩いた。

教育の王道を歩みつつ進化する学校に

杉山 剛士 埼玉県立浦和高等学校 校長

  杉山浦高校長 【浦高とは】

依田(聞き手):浦和高校は、歴史と伝統を持った埼玉を代表する高校であり、全国へも名を馳せています。 歴代校長が引継いできたもの、取組んだものがたくさんあると思いますが、杉山さんが「浦高の校長」を務められるにあたり、心に期したものをお聞かせいただければと思います。

杉山:私は東京で生まれましたので、よもや自分が浦高の校長になるとは思ってもいませんでしたが、人間には皆「役割」があるといいます。「浦高の校長」に充てられたことを「天命」と受け止め、これまでの人生で学んだこと、教わったことを生かして、浦高の発展に尽力していきたいという思いを強く持ちました。

浦高の中に入って気づいたのは、浦高が教育の王道を歩みながらも進化し続けてきたことです。教育の王道とは知・徳・体のバランスのとれた教育です。今の時代、王道を歩むことは大変なことですが、私も、歴代校長に引き続き、教育の王道を正々堂々と歩みながらも、時代の変化に対応した進化をさせていきたいと考えています。

依田:浦和高校での3年間は、「守・破・離」と表現されていますが、その意味するところを教えていただければと思います。

杉山:武道や芸道で使われる概念です。「守」とは型を学ぶこと、「破」は型を破ること、「離」は型を離れることです。 1年では浦高生の型を学べるよう、徹底的に鍛えます。 2年生では、その基本型を踏まえながら、様々なことに挑戦する。 そして3年生では、自走する生徒集団づくりと呼んでいますが、自らの力でイノベーションを起こせる集団形成をねらっています。 いつまでも「守」だけではだめだし、最初から「離」だけで放り出すこともだめ。そうした考え方から生まれてきた近年の浦高の教育理念の一つです。

自走する兎 【三 兎】

依田:前校長である関根県教育長の著書「少なくとも三兎を追え 私の県立浦和高校物語」を読ませていただきました。 その冒頭から「浦高は、無理難題を課す学校である。」というインパクトのある言葉が登場しますね。 限界まで心身を鍛錬する生徒達の姿が浮かぶと同時に、先生方のご努力もいかばかりかと感じ入るところです。

この著書の中に、「卒業生のひとこと」として紹介された言葉が印象に残っています。 「結局、部活で全国へ行って、第一志望に合格することもできた。それだけじゃないのが浦高。部活もクラスも行事も勉強もやりたいことならすべてできるという欲張りがきくすごい学校にいたと、卒業してからわかった。」 ・・・というものです。  こういう卒業生を持つ、言葉を聞けるということは、校長冥利に尽きると思いますが、いかがでしょうか。

杉山:全くそのとおりですね。浦高では古くから校訓として語られている「尚文昌武(文を尊び武を盛んにする、文武両道の意味)」のほか、お話にあった「少なくとも三兎を追え」「無理難題に挑戦しろ」という言葉が大切にされています。

もう一つ私たちが使っているのは「世界のどこかを支える人間になれ」という言葉です。宇宙や外国で活躍する者もいてよいのですが、身近な場所においても、「お前じゃなきゃだめだよ」「お前の代わりは他にはいないんだよ」と頼りにされるような、専門的な知識・技術だけでなく人間力をもった人材を育てていきたいと考えています。それが浦高の使命ですね。

依田:若田さんのように世界、いや宇宙を舞台に活躍する人もいれば、小さな場所であっても全力を尽くせる人材育成が大切だということですね。

杉山:そうです。「グローバル」とよく言いますが、世界に通用する人材を育てることも大切ですし、一方「ローカル」、身近な場所で、広い心、広い視野をもつことも重要なことですね。

浦高記念像 【浦高の定時制】

依田:浦和高校には、定時制課程がありますが、私は、ここにも「浦高ならでは」の教育理念、目標があるに違いないと考えているのですが、その部分について教えていただけたら幸いです。

杉山:全日制に目が奪われがちですが、実は近年の定時制(浦定と呼んでいます)が凄く頑張っています。「社会的自立を目指し、未来を拓く若者の育成」を学校目標として掲げ、それぞれの生徒が社会で「一人前」となれるよう、少人数の環境を生かしながら、学習指導・生徒指導・進路指導をきめ細やかに進めています。

特に進路指導については、これまで定時制ではあまり取り組んでこなかったと思いますが、外部のNPOとも積極的に連携して系統的・組織的な進路指導体制の構築に力を入れています。 私もよく生徒に講話をする機会がありますが、全員の生徒が顔を上げて真剣に聞いている姿を見ると、とても頼もしく思います。

尚文昌武 【花園で見せた浦高魂~王道を歩みつつ進化を】

依田:今回私は、私立高校の多くが、進学に特化したコースを設置する中にあって、公立の雄たる浦和高校が、どんなスタンスで学校運営を進めていくのか?についても、お伺いしようと考えていました。 しかし、浦高について学ぶほど、その奥深さ、底力を知り、そういった質問は野暮であると思うに至った次第です。

 第93回全国高校ラグビー大会で、浦高ラグビー部は花園の舞台へ立ちました。 これは、浦高教育の象徴の一つであり、ラグビー部のみならず、浦高生の「尚文昌武」魂の結晶だとさえ思います。

結びになりますが、浦高ラグビー部の雄姿に触れた際に、杉山さんが抱かれた感慨をお話しいたただき、あわせて浦高の未来へ向けての抱負をお聞かせください。

杉山:昨年12月に開催された54年ぶりに出場した全国大会では、花園のバックスタンドが生徒・保護者・OBをはじめ浦高を応援する人々で埋め尽くされました。 残念ながら、善戦むなしく初戦で敗れてしまいましたが、「最後まであきらめるなよ」との主将のかけ声のもと、全力で戦い抜いたフィフティーンのひたむきさは、まさに浦高魂が具現化したものでした。

今、世界のグローバル化が進む中で、激しい競争を勝ち抜く「タフ」な人材が求められています。でもグローバル化の行き着く先が「格差の拡大」であってはならない。多様な他者に共感できる「優しさ」が求められています。 この「タフさ」と「優しさ」の両立こそ、仲間とともに無理難題を乗り越えていく浦高教育の神髄だと思います。

浦高は今年度から国のスーパーグローバルハイスクール(SGH)に指定されましたが、真のグローバル人材育成に向け、引き続き、教育の王道を歩みつつ、浦高を進化させるとともに、浦高教育の先進性を世界に発信していきたいと思います。

依田:有名大学へ合格させれば、それで高校の役割は終わりというよくある話は、浦高には無縁ですね。 今日は、貴重なお話をありがとうございました。

杉山:まさにそのとおりです。こちらこそ、ありがとうございました。

兎 【エピローグ】

浦高の校長先生は忙しい。 それを承知の上で、インタビューをお願いしたわけであるが、杉山校長は満面の笑顔で迎えてくださった。 改めて、心から感謝申し上げたい。

「浦高」といえば、全国区の有名校であり、誰もが知っている学び舎である。 しかし、その根底を支え、流れ続ける真の理念を知る人は多いとは言えない。

今回のインタビューにあたり、関根郁夫前校長著「少なくとも三兎を追え」を私は何度も読み返した。 そこからは、浦高の底力、伝統を支えてきたもの、これからを生きる力、世界のどこかで役に立つ人間を育てる熱いメッセージが伝わってくる。

杉山校長の元、浦高は益々進化し、大いにその発信力を駆使し、「教育の王道とは何か!」を伝えていってくれることだろう。

「尚文昌武」、「世界のどこかを支える人材を育てる」、「少なくとも三兎を追え」。 浦高の課す「無理難題」は、逞しい若者を育て、自走する集団として世の中を動かす原動力となるに違いない。

文末になったが、重ねて杉山校長に、心から御礼申し上げる次第である。 今回のインタビューを通して、私の中で浦和高校物語の扉が、どうも開かれてしまったようである。

001 (取材と文責、写真:依田 透)