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埼玉発~全国へ 教育インタビュー 井上 尚明 歴史と民俗の博物館 学芸員(早稲田大学 非常勤講師)

歴史と民俗の博物館正面入り 有識者やがんばっている若者達を紹介する教育インタビュー。

第7回は、井上 尚明 歴史と民俗の博物館 学芸員(早稲田大学 非常勤講師)に、秋の特別展「甦る鉄剣」について、お話をうかがってきました。

【プロローグ】

埼玉の県南に位置する大宮公園は、桜の名所としても知られ、かつて、夏目漱石や正岡子規をはじめとする文豪達も訪れるなどの歴史を有している。

その大宮公園内にある前川國男氏設計の特徴ある建物が、歴史と民俗の博物館。

今、この空間に、考古と今を結ぶ展示がなされている。

「甦る鉄剣」

埼玉古墳群、稲荷山古墳出土、国宝・金錯銘鉄剣が、新たな命を吹き込まれ、光を放っているのだ。 1500年の歳月を結ぶ空間を旅してみよう。

 

特別展「甦る鉄剣」に寄せて

井上 尚明 埼玉県立歴史と民俗の博物館 学芸員(早稲田大学 非常勤講師)

 

井上さん導入部 【特別展開催までの道のり】

依田(聞き手):歴史と民俗の博物館の年中行事の中でも、秋の特別展は大きな位置づけにあると思います。

井上さんは、自然の博物館館長などを歴任され、ご自身で直接展示を担当するのは久しぶりかと思いますが、多くの準備を重ね、こうしてオープンを迎えたご感想をお聞かせください。

井上:本当に久しぶりですよ。正直に言うと、とても大変でした。ですが、こうしてオープンまで辿り着けて、ほっとしています。

依田:井上さんは、今年の3月に館長職を勇退され、歴史と民俗の博物館には、4月に着任されたわけで、期間的にもハードだったでしょうね。

井上:そうですね。今回、私が担当をしましたが、ここに至るまで何年もの間、多くの方々が、様々な形で尽力されました。改めて敬意を表したいですね。

復元摸作表全体 写真:歴史と民俗の博物館提供

復元摸作表全体
写真:歴史と民俗の博物館提供

【鉄剣の復元が意味するところ】

依田:今回の特別展の目玉は、金錯銘鉄剣の復元かと思いますが、鉄剣復元に至った経緯や、その意味するところを教えてください。

井上:復元鉄剣は、約7年弱の月日を費やしてなされ、平成25年に県へ寄贈されました。

その間、刀剣作家、研師、刀身彫刻師など名匠の方々から多大なるご協力をいただき、また、その実現へ向けて奔走された諸氏の皆さんの熱意によりなし得たものです。

意味するところといえば、まず目に見えるものとしては、錆がついた状態ではなく、制作当時の鉄剣の姿を鑑賞できるということですね。

また、特に申し上げておきたいのは、今回、実際に復元作業をしたからこそ分かった事実があります。

それは、鉄剣に文字を刻む(象嵌)ことの難しさです。

いざ、やってみて、かなり高度な技術が必要であることが分かったのです。

これまで私達は、金錯銘鉄剣に刻まれた文字情報の貴重さに目が行っていました。

たとえば、115文字という膨大な情報量があると同時に、そこには、「年号、人命、職名、施設」といった貴重な内容が記述されていることに注目してきたわけです。

しかし、今回の復元により、1500年ほども昔の時代に、極めて高い技術力があったことを知ることができたのです。

依田:なるほど。今回の展示を拝見して、たとえば甲冑類も素晴らしい出来栄えであることに感心します。デザイン性にも富んでいるように感じました。

すごい技術だったのですね。

井上:そうですね。あの時代において、既にこれだけの高い技術があったことは、驚きだと言ってもいいでしょう。

彩画職人部類(歴史と民俗の博物館蔵) 写真:歴史と民俗の博物館提供

彩画職人部類(歴史と民俗の博物館蔵)
写真:歴史と民俗の博物館提供

【特別展のみどころ】

依田:「甦る鉄剣」というテーマからも、メインの展示品が明確な特別展だと思いますが、関連資料、いわゆる展覧会としてストーリーを持たせるための材料を探すことは、なかなか大変な作業だったのではないでしょうか。

井上:埼玉県内出土の象嵌刀の大部分を可能な限り集めました。持ち出しが可能な状態のものは、ほとんど揃えましたよ。

杖刀人(じょうとうじん)の姿を多く知っていただければと思っています。

また、武器、武具など、県外からも貴重な資料をご提供いただいておりますので、ぜひ堪能していただきたいですね。

依田:観覧の楽しみ方は、いろいろあると思うのですが、あえて・・・と申しますか、「こういう見方も面白いよ」というヒント、アドバイスを井上さんからお伺いしたいのですが。

井上:考古ファンの皆さん、刀剣ファンの皆さん、いずれも楽しめる展示となっていますので、それぞれの視点から楽しむことができると思いますよ。

また、刀鍛冶の歴史資料も充実していますので、こちらの面でも楽しんでいただければと思います。

それに、国の重要文化財である熊谷市出土、武人埴輪(東京国立博物館蔵)が、約10年ぶりに埼玉へ里帰りしていますので、この機会にぜひ堪能していただきたいですね。

復元住居と猫 【むすびに】

依田:結びになりますが、県民の皆さん、そして考古、歴史ファンの方々へ向けて、PRをお願いします。

井上:今回の特別展は、金錯銘鉄剣に遙か昔の輝きを甦らせるというプロジェクト、夢の実現だと言ってもいいでしょう。

考古愛好者、刀剣愛好者の皆さん、いずれも、それぞれの楽しみ方ができる展示となっております。

また、刀鍛冶の歴史資料も充実していますので、見どころ満載です。

ぜひ歴史と民俗の博物館へお立ち寄りいただければと思います。

お待ちしております。

井上さん展示室 依田:今日は、ご多用のところ貴重なお話をありがとうございました。

私も、井上さんの言葉にわくわくしてきました。

そして、本当にお疲れ様でした。特別展のご盛会をお祈りしています。

井上:こちらこそ、ありがとうございました。

会期中、講演会や古墳見学会など、いろいろな関連事業もご用意していますので、ぜひ依田さんも来てくださいね。

外看板 【エピローグ】

ひとつの展覧会を開催するには、その会期の数倍もの準備期間を要する。

展示された資料、それぞれに物語があり、世に出るまでには、その陰に学芸員の努力と汗がある。

今回の特別展「甦る鉄剣」。

何度となく、展示室内を巡ったが、その度に新しい発見がある。

「もう一度、行ってみようか」そんな思いを運んでくれる空間だと言っていいだろう。

文末になったが、特別展オープン時というご多用の最中にあって、こころよくご協力くださった井上さんに、心からお礼申し上げたい。

※特別展「甦る鉄剣」は、11月24日(月)まで開催。

2014年10月15日

(取材と文責:依田 透)

大境古墳出土武人埴輪 (熊谷市教育委員会蔵) 写真:歴史と民俗の博物館提供

大境古墳出土武人埴輪
(熊谷市教育委員会蔵)
写真:歴史と民俗の博物館提供